需要が加速する、プロ人材活用〜山形県におけるプロ人材活用とは〜

山形県
みらい企画創造部 移住定住・地域活力創生課長 槇 英毅
株式会社ホテルシンフォニー
社長室 室長 佐藤 雄
山形県・槇 英毅 氏、パーソルキャリア株式会社・鏑木 陽二朗 氏、株式会社ホテルシンフォニー・佐藤 雄 氏

少子高齢化による労働人口の減少が続き、慢性的な人手不足に悩む企業は多く見受けられます。地域における人手不足の悩みはさらに顕著です。

こうしたなか「HiPro」では、個人が持つさまざまな経験やスキルが1社に留まることなく、必要とする企業や組織で柔軟に活かされ、個人と企業が相乗的に成長する「スキル循環社会」の実現を目指しています。またその一環として2023年6月より、都市部で専門的な経験を積んだプロ人材と地域の企業とをつなぎ、地域企業・経済発展に貢献する「スキルリターン」プロジェクトに取り組んでいます。

2023年10月26日(木)に、スキルリターン第二弾の実施エリアである山形県でスキルリターン発表会(第一部)とトークセッション(第二部)を開催。第二部のトークセッションでは、山形県 みらい企画創造部 移住定住・地域活力創生課長 槇氏・株式会社ホテルシンフォニー 社長室 室長 佐藤氏をゲストに迎え、「需要が加速する、プロ人材活用~山形県におけるプロ人材活用とは~」をテーマに意見を交わしました。そのトークセッションの様子を紹介します。

新しい選択肢「プロ人材活用」が、地域企業活性化のカギに

鏑木:「プロ人材」という新たな選択肢の需要が高まっていますが、山形県さんのお話を伺う前に、日本全体におけるプロ人材の市場についてご紹介できればと思います。

まず日本の労働市場の特徴ですが、日本全体における「人口減少」と「労働者の東京への一極集中」が挙げられます。都市部に労働者が集まる一方で、地域における労働力不足は厳しい状態が続いていることも背景に、政府では以下のような取り組みを進めています。

  • 2016年…プロフェッショナル人材事業開始
  • 2018年…副業解禁
  • 2022年…人への投資

一方、「地方副業」という新たな選択肢に対し個人の関心はどうあるのでしょうか。「HiPro」が地方副業に関する関心度について調査したところ、約60%の個人が地方副業に関心を持っていることが分かりました。

政府による副業解禁のほか、リモートワークの浸透など“はたらく環境”が変化したことも、地方副業に関心・関心を持つ個人が増えた理由だといえるでしょう。

また、地方副業に期待する対価は「報酬」だけではなく「やりがい」や「自分の生まれ育った地域への還元」も重視されていることも分かり、大変興味深い結果であると感じています。

続いて、プロ人材市場のマーケット感ですが、圧倒的に企業優位な状況です。なぜなら、副業・兼業を望む個人は爆発的に増えたものの、企業の受け入れが追い付いていないためです。

中途採用の市場においては、求人に対し人材が少なく人材獲得競争が激化しています。個人が企業を選びやすい傾向にあることは、皆さんもご存知かと思います。

対して、プロ人材活用のマーケットは真逆です。副業・兼業を希望する個人に対し、受け入れをしている企業はまだ少ないため、地域で人材獲得を希望する企業にとっては追い風が吹いているといえます。

関係人口増を目指す山形県

鏑木:ここからは「山形県から見たプロ人材活用」「実際に活用した観点」から、ゲストのお二人に詳細を伺いたいと思います。まずは山形県を取り巻く人材環境について、山形県の槇さん、お話をお伺いできますでしょうか。

槇:首都圏に労働人口が集中し、労働人口の減少により地域の活力が低下する状況は、私たち山形県にとって大きな課題です。対策として山形県では「山形で仕事を見つけ、移住・定住してもらう」ことに力を入れてまいりました。特にここ3~4年は、コロナ禍による「リモートワーク推進」「環境の良い地方での職探し」によって、地方に向かう人の流れができています。

地元の金融機関・産業支援機関なども、都市部の高度なスキルを持つ人材採用に注力した結果、一定の成果が出ています。しかし、まだ課題があることも事実です。

山形に移住・定住する人が増えたものの、その内の55%はUターンです。つまり、山形出身者が、山形に戻ったパターンだといえます。裏をかえせば、山形に縁のない人が、都市部にはまだ多く存在するわけです。都市部在住かつ山形に縁がない人に対し、「山形」というメッセージが、まだまだ届いていない、広がっていない。 メッセージを浸透・拡散することが、山形県の課題だと考えます。

鏑木:移住・定住に取り組むなかで新たな課題が見つかったのですね。その課題については、どのように取り組まれているのでしょうか。

槇:鏑木さんがお話された通り、都市部の高度人材(プロ人材)の副業・兼業に対するへの関心は高まっています。そこで山形県は「山形県の関係人口増」という新たな柱を掲げることにしました。都市部の高度人材(プロ人材)を、副業・兼業で山形県の関係人口として取り入れ、山形県への企業および地域に活力を与えたいと考えます。

従来の「山形県への移住・定住促進」という柱はもちろん、「山形県の関係人口増」という柱を加えた、2本柱への政策転換です。

鏑木:移住・定住だけを目指すのではなく、さまざまな手段を使って山形県を盛り上げていく。その一つとして、関係人口増への注力があるのですね。具体的にはどのように取り組まれているのでしょうか。

槇:副業・兼業という形で、山形県内の企業に関わっていただく方を増やしたいと考えています。

山形県内の中小企業は、99%以上を占めています。中小企業では高度人材(プロ人材)を活用したいと思いつつ、高度人材(プロ人材)に対し「1人分の仕事量は用意できない」「見合った給与を支払えない」といった声があるのも事実です。また、高度人材(プロ人材)を活用する考えや受け入れる体制も整っていない傾向にあります。

そこで山形県は、「HiPro」さんとタッグを組ませていただくことにしました。県内の金融機関さん・プロフェッショナル人材戦略拠点さん等とも連携し、都市部の高度人材(プロ人材)が副業・兼業として山形県の企業と関われるよう、県として後押ししたいと考えます。

発想力を活かしたプロ人材からの支援

鏑木:続いて山形県内で実際にプロ人材を活用された事例について、ホテルシンフォニーの佐藤さんにお話を伺いたいと思います。山形県内の多くの企業ではプロ人材の活用を行っていないなか、ホテルシンフォニーさんで活用するに至った経緯を教えてください。

佐藤:コロナの5類移行で旅行が盛んになると考え、戦略を立てながら頑張ろうと考えていた矢先に、戦略の中心的な役割を担うスタッフが急遽退職することになりました。窮地に追い込まれた結果、山形振興公社さんに人材募集の相談に伺うことにしました。

すると担当者の方から「 “HiPro”という副業支援(プロ人材活用)があるから、やってみませんか?」と提案を受けました。当初、副業人材の活用は考えていませんでしたが、提案を受け「じゃあやってみようか?」という話になりました。

鏑木:人材を採用したいと話を聞きに行って、副業人材の活用という選択肢を勧められたわけですが、抵抗感はありませんでしたか?

佐藤:個人的には非常に抵抗がありました。「リモートでどこまでできるのか?」「即戦力として実務に対応してもらえるのか?」といった懸念が頭に浮かび、正直なところ最初は不安でいっぱいでした。

鏑木:多くの企業も最初は不安を覚えると思います。佐藤さんがおっしゃった通り、最初の抵抗感をゼロにすることは難しいかもしれません。一方で、抵抗感があるなかで、プロ人材の活用にチャレンジされた結果について、お話をお伺いできればと思います。

佐藤:担当者が退職した背景から、新たな人材に求める条件に「実務ができること」を挙げていました。実際に紹介された副業人材と半年程度一緒に仕事をしてきましたが、実務に関しては残念ながらあまり進められていない状況ですが、企画に関しては予想以上に「素晴らしい発想力」をお持ちの方なので、その点では強力なサポーターとして活躍してもらっています。

鏑木:希望していた人物要件にすべて合致しなかったものの、企画という側面ではスキルを発揮され、佐藤さんと共に広報戦略に取り組まれているのですね。プロ人材に仕事を任せるなかで、苦労した部分がありましたら、教えてください。

佐藤:最初のうちはリモートでのコミュニケーションだったので、お互いを理解するのに時間がかかったように思います。しかし、コミュニケーションを重ねていくうちに、お互いの理解が進み、我々もプロ人材の強みが見えてきました。

紹介いただいたプロ人材(以下Kさん)は大手百貨店のバイヤーを務め、各地方の商品・食材を取り扱い、利酒師の資格もお持ちだったので、その経験をぜひ活かしてほしいと考えていました。ホテルシンフォニーにお越しいただいた際には地元寒河江市の地酒をテイスティングいただき、Kさんのコメント入りで「利き酒師のおすすめの地酒」として紹介したのが最初の取り組みでした。

鏑木:ほかには、どのような取り組みをされたのでしょうか?

佐藤:ホテルシンフォニーは地元農家さんとも取り組みをしているのですが、農家さんから「とうもろこしを多く販売したい」という希望をいただきました。

しかしながら、寒河江産のとうもろこしは認知度が高くないため「とうもろこし狩り」の企画では難しいと感じ、Kさんに相談したところ「お子様に特化して自由研究と組み合わせてはどうか」という提案を受けました。自由研究用の資料も作成しインターネットに掲載したところ、複数のお客様から宿泊予約をいただき、好評を得ました。

また、8月には、先述のとうもろこし農家さんが干ばつに見舞われ、とうもろこしの先端に実がつかなくなったのです。農家さんから「出荷できないとうもろこしを、なんとかできませんか」と相談をうけました。

Kさんからは「とうもろこしを加工してかき氷のとうもろこしシロップを作ったらどうでしょう」と素晴らしい提案を受けました。残念ながら、ホテルシンフォニーでは対応できなかったため、私と農家さんで市内のケーキ屋さんにご相談したところ、素敵な「とうもろこしのブラマンジェ」を作っていただくに至りました。

ブラマンジェはホテルシンフォニーとは直接関係ありません。しかし、寒河江市を盛り上げることが、宿泊客を増やすきっかけにもなると思いましたので、ホテルシンフォニーのSNSでも「とうもろこしのブラマンジェ」を発信し、認知獲得に取り組みました。

鏑木:素敵な取り組みについてお聞かせいただき、ありがとうございます。プロ人材募集に関してはKさん以外からも申し込みがあったと思いますが、実際にどれくらいの応募があったのでしょうか?

佐藤:営業担当者からは「30人ほどの応募があれば良い」と言われていましたが、「山形県寒河江市のホテルにそれほど応募はないだろう。15人くらい応募があれば嬉しいね」と社内で話していたのです。

蓋を開けると、72名からの応募があり「うわ!すごい」と思いましたね。実際にハイクラスな方も(Kさんを含め)複数名いらっしゃいました。

鏑木:多くの応募者の中からKさんとの出会いがあり、こうした素晴らしい取り組みを実施できたということですね。ありがとうございます。

プロ人材活用のマーケットは、まだまだこれからです。山形県さん・ホテルシンフォニーさんのようにプロ人材の活用に積極的に取り組んでいる自治体・企業は、まだまだ多くありません。しかし、副業・兼業をはじめ“新たなはたらく選択肢”を望む個人の方に機会を提供できれば、多くの方が手を挙げ、地域振興にも参加できるでしょう。

私たちは、ホテルシンフォニーさんのようにプロ人材活用の魅力を感じていただける企業を1社でも多く作り、そして山形県さんの取り組みが持続できるような仕組みを強化していきたいと考えます。

改めまして、本日はありがとうございました。

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