福井県内企業におけるプロ人材活用~株式会社志保重における活用とは~

株式会社志保重 

代表取締役

清水 雅彦

パーソルキャリア株式会社 

執行役員 エージェントサービス事業部 事業部長 兼 タレントシェアリング事業部 事業部長

日本全体で人材不足が進む中、特に地域の企業では、求めるスキルや経験を有する人材の確保が難しい場面は少なくありません。経営に大きな影響を与える人材不足を解決する新たな方策として、外部のプロ人材を活用する動きが生まれています。

「HiPro」では、個人が持つスキルがさまざまな企業で柔軟に活かされ、個人も企業も成長し続ける「スキル循環社会」の実現を目指しています。2023年に始動した「スキルリターン」プロジェクトは、都市部で専門的な経験を積んだプロ人材と地域企業をつなぎ、事業課題の解決を図るとともに、地域企業と経済の発展に貢献する取り組みです。

これまで全国9府県で「スキルリターン」プロジェクトを展開し、今回、新たに福井県でプロジェクトがスタートします。

2025年10月2日には、福井県でスキルリターン発表会を開催。本記事では、当日行われたトークセッションの様子をお伝えします。プロ人材活用の実績がある県内企業、株式会社志保重 代表取締役の清水 雅彦氏をゲストに迎え、プロ人材活用の経緯、成果などについて詳しくお話いただきました。

リブランディングをし、新しい魅力をお客様に届けるためにプロ人材を活用。

鏑木:トークセッションでは、実際にプロ人材を活用された企業の具体的な活用内容や成果などについて伺いたいと思います。初めに、自己紹介と会社の紹介をお願いします。

清水:株式会社志保重の代表取締役を務めます清水 雅彦と申します。志保重は、江戸時代の文化3年創業という長い歴史がありますが、先々代の祖父までは酒饅頭一本でやってきた小さな菓子店でした。昭和40年代にケーキも扱うようになってからは、和洋菓子店として多店舗展開して大きくなり、私に世代交代。先代のおかげでよくも悪くも自由に事業継承させてもらいました。

鏑木:志保重さんにとって、プロ人材の活用はこれまでにない人材確保の手法だと思いますが、なぜ活用をされようと思ったのか、そのあたりから伺ってもよろしいでしょうか。

清水:まず、志保重がある福井県小浜市は人口3万人にも満たない地方都市です。あらゆるものが足りていない印象で、人材はその一つです。志保重をリブランディングするにあたり、相談先となるデザイナーさんや建築家さんもいませんでした。資金面でご相談にのっていただいている小浜信用金庫さんに「志保重をリブランディングして新しい魅力を届けようと思うのだけれど、それを手伝ってくれる人がいない」と話した際、ご紹介いただいたのがパーソルキャリアさんであり、HiProのサービスでした。

鏑木:プロ人材活用に至る前には、人材を雇用する、採用するという選択肢は検討されたのでしょうか。

清水:まったくそのイメージはありませんでした。自社で育てるにも社内にスキルはありません。少し前にIターンで人材を雇い入れるという方法も聞きましたが、定年まで雇う費用はありませんので、候補に挙がりませんでした。

鏑木:そうだったのですね。実際にプロ人材を活用しようと考えたときに、懸念点として挙がったことや、気になったことはありましたか。

清水:以前、クラウドソーシングの形で業務を依頼した経験はあったので、プロ人材活用も「同程度のスキルを持った人がくるのかな」というイメージがありました。一方で、よい人に出会えるのか、高いスキルを持っている人がいるとしても出会えるのか不安はありました。それでも成約するまでは費用がかからないという話も聞いていたので、勧められたようにまずは申し込んでみました。

「人となり」を重視し、社会貢献意欲の高いプロ人材とマッチング。

鏑木:まずは試してみようと思ったということですが、募集をするにあたっては、どのような方を求めていましたか。

清水:志保重には喫茶室を併設した店舗がありましたが、コロナ禍の影響もあり閉じてしまいました。一方で、SNSでの発信をきっかけに志保重に興味を持ってくれる方が増え、コロナ禍が落ち着いたら「お店に行きたい」と言ってくれる方も出てきました。嬉しい反面、喫茶室は閉じてしまいましたし、店舗自体も築30年で古さが気になります。新しいお客様をお迎えするためにも、店舗のリニューアルをしたいと思うようになりました。とはいえ、志保重として何を打ち出してリニューアルすべきかわからなかったため、店舗リニューアルをプロデュースしてくれる人と出会いたいと思い、リブランディングができる方をテーマに募集をかけました。

鏑木:どんな方が手を挙げてくれましたか。

清水:応募期間を1週間で区切ったのですが、すぐに20名ほどから応募がありびっくりしました。その中には、大手コンビニチェーンでスイーツブランドの開発をしていた方や、誰もが知るような会社で開発に携わっている方、個人事業主として成果をあげている方など、「こんな人が申し込んでくるのか」という方ばかりでした。

鏑木:想定外という印象でしたか。

清水:驚きました。日ごろ小浜市で菓子屋をしていたら、出会うことのないような方ばかりでした。

鏑木:「リブランディング」を副業で挑戦できる機会は比較的少ないので、やりたい方が多かったのだと思います。また歴史のある菓子店のブランドリニューアルという、やりがいのある仕事ですから、魅力的だったのだと思います。具体的には、どのような仕事を依頼されましたか。

清水:店舗リニューアルのための店舗デザインと、ロゴの刷新です。

鏑木:ロゴの刷新もご依頼されたのですね。

清水:高度経済成長期に多店舗展開した際にロゴも複数作っていて、統一性がない状態でした。ロゴも含め、私たち経営者やスタッフの想いを聞き取り、それを全部集約してどうやってリブランディングしてお客様に打ち出すのか。そうした仕事は、都市部のデザイナーさんであれば引き受けてくれる方もいるようですが、小浜市にはいませんし、福井市内でも数えるほどです。新規でご依頼するのは難しそうだったので、HiProを通して、そういうスキルを持った方と出会いたいと考えていました。

依頼した方は、店舗デザインの専門家ではなかったのですが、誰もが知る大企業に勤務されていらっしゃいます。そこで培ったスキルを当社で発揮してもらえるとよいものが得られるのではないかと思い、ご依頼を決めました。

鏑木:社員ではない外部の方が、自社の中核プロジェクトに入るということになりますが、社員の皆様の反応はいかがでしたか。

清水:プロ人材に依頼していることは社内でも伝えていましたが、プロ人材の方と直接関わっているのは私だけでした。私とプロ人材の方が話し合った結果を実際の仕事に落とし込んでいく中で、社員たちからも「それはうちの中から出てこないアイデアだ」といった、驚きや喜びの声が上がってきました。

鏑木:多数の応募者の中から一名に絞っていくプロセスにおいて、清水さんが特に重視していた要素はどんなことでしたか。

清水:やはり「人となり」でしょうか。まずは2か月で契約しましたが、よければ更新もできると伺っていました。ご依頼したプロ人材は30代の若い方です。当社と契約したらすぐに京都に飛んで、店舗リニューアルの参考のために京都のお茶屋さんや菓子店などを回り、今、どのような店が世の中にうけているのかを調べたり、市場調査を兼ねて「人生でこんな食べたことない」と言うほどたくさんのお菓子を食べてくれたりもしました。

何より驚いたのは、「どうしてこんなに熱心に副業の仕事をしてくれるのか」と聞いたところ、「自分のスキルを世の中に役立てたい」と答えたことです。「副収入を得たいから」と答えるだろうと思って質問したのですが、驚きと共に一生懸命やってくれようとしている想いが伝わりました。

当初は、契約した2か月の間に、新しいロゴや店舗デザインの輪郭が定められたらよいと考えていましたが、一緒にプロジェクトを進めるうちに、店舗データの分析や問題点の抽出までしてもらうようになり、結局、一年間お付き合いさせてもらいました。

鏑木:想定を超えたお付き合いになったということですね。私は今、転職、つまりは中途採用支援の領域にも携わっていますが、転職で個人が大切にする要素と、副業で仕事を探すときに大切にする要素は全く違います。報酬は、どちらかというと本業で重視しているケースが多く、副業の場合、報酬よりはやりがいや面白さ、本業では経験できないような仕事を探す傾向にあります。このあたりが強く表れているのが副業市場の特徴です。まさにそういう方と出会えたのがよいご縁だったと思います。

清水:プロ人材の活用は初めてでしたが、一人目でこんな方と出会えたのは幸せだったと思います。

店舗のリニューアルが完了。今後もよい変化を求めてプロ人材を活用したい。

鏑木: 一年間、実際にさまざまな取組みをしてみてどのような成果が出たのか。またこの先、プロ人材を継続して活用する可能性があるのか。展望なども含めてお伺いできますか。

清水:築30年のお店がリニューアルできました。そのお店にお客様がたくさん来てくださって、売上も伸びました。

また、社内への影響も大きいと感じています。ご支援いただいたプロ人材のような方を自社で育てようとしても、自社のスキル以上の人材は育たないと言いますし、当社にない文化を持ってきてくれて学ぶこともたくさんありました。スタッフや役員は、経営者である私に対してある程度までしか意見を言いません。しかし、プロ人材の方は30分予定のミーティングが気づけば2時間を超えてしまうほど、さまざまな意見やダメ出しをしてくれます。そのような仕事のパートナーと出会える経験はなかなかないと思います。

今回20名の方から応募がありましたが、もしかしたら、今回お願いした方以外でも、他のタスクでご一緒すれば、また別のよい変化が生まれる方がいたかもしれません。これからもプロ人材の方にはお世話になりたいと思っています。

鏑木:どちらかというとスキルや経験といった視点でプロ人材を選ばれる方が多いと思いますが、清水さんのお話を伺っていると、スキルや経験は当然として、それよりも人柄がポイントであったように感じました。今後もそういった人を見つけて、パートナーシップを結んでいきたいとお考えでしょうか。

清水:今回ご依頼したプロ人材は、「こういうやり方をしたらよい」と教えてもらって終わりではなく、「こういうやり方があります。やりましょう」と言ってくださる方でした。たとえば顧客アンケートを取った際も、アンケート調査だけでなく「インタビュー調査もしましょう」と提案してくれました。一生懸命に取り組んでくれた姿勢は、スキルを越えた人間性だろうと思うので、今後新たにご依頼する際にも大事にしていきたいと思います。

鏑木:今回は貴重なお話を伺わせていただきありがとうございました。

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