
人事
若手が辞め、管理職が疲弊するのはなぜか? ── 多くの企業が見落としている「育成設計」の問題
若手社員の早期離職や管理職の疲弊に悩む企業は少なくありません。こうした問題に対し、多くの企業ではエンゲージメントサーベイや360度評価、管理職研修などの施策を実施しています。しかし、十分な改善につながらず、同じ課題をくり返しているケースも見受けられます。
なぜ離職と管理職疲弊は同時に進み、施策を講じても十分な改善につながらないのでしょうか。
人事領域で20年以上の経験を持ち、多くの企業の組織改革や人材育成に携わるプロ人材・津藤 裕美氏に、離職や管理職疲弊の背景にある構造的な課題と、その根底にある「育成設計」の重要性について聞きました。
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「若手の離職」と「管理職の疲弊」はなぜ同時に進むのか

——多くの企業が若手社員の離職や管理職の疲弊に悩んでいます。津藤さんのもとにはどのような相談が寄せられていますか。
津藤氏:多いのは「管理職が育っていない」というご相談です。また離職に関しては、「優秀な人材から辞めてしまうのをどう止めればいいのか」といった相談もよく受けます。
興味深いのは、多くの企業が若手の離職と管理職育成を別々の問題として捉えていることです。多くの場合、両者は深く関係しています。
その背景を理解するには、まず若手の離職がなぜ起きているかを見ておく必要があります。かつては大手企業に入社すれば定年まで勤め上げることが一般的でした。しかし現在はその前提自体が大きく変化しています。特に若い世代は、役職や企業への帰属意識よりも、自身の成長機会や報酬、はたらきやすさを重視する傾向があります。加えて中途採用市場は非常に活発で、転職先の選択肢も豊富です。
以前は仕事内容、人間関係、報酬など複数の要素に不満が重ならなければ転職しないといわれていました。しかし現在は、大きな不満がなくても転職を選ぶことは珍しくありません。
「我慢してはたらき続けることよりも自分が心地良いと思える環境を求める」といった価値観を持つ人が増え、「上司と合わない」「成長実感がない」といった要素も、転職を判断する十分な理由として受け止められるようになっています。
——「成長実感がない」ことで転職を考える人は、何を問題だと感じているのでしょうか。
津藤氏:特に大企業では、評価が横並びになりやすい傾向があります。頑張った人もそうでない人も大きな差がつきにくく、「自分は本当に成長できているのだろうか」と感じる人が増えているのです。
本来、管理職には適切なフィードバックを通じて、部下の成長を後押しする役割があります。しかし現場では、ハラスメントへの懸念から強いフィードバックを避ける管理職も少なくありません。
さらに、以前のような業務外での対話の機会も減っています。結果として上司と部下の関係性が希薄になり、お互いの考えが伝わりにくくなっています。こうした状況が積み重なり、若手社員は成長実感を得られず、離職を選択しているのだと考えられます。
——こうした状況では、管理職が疲弊していくことは避けられないように思います。
津藤氏:そうですね。離職によって現場に穴が空くと、そのしわ寄せは管理職に向かいます。特にプレイングマネジャーの場合は、自身の業務を抱えながら、欠員対応や採用活動、育成、マネジメントまで担わなければなりません。
本来、管理職に求められる役割は「組織の成果を出すこと」と「人を育てること」の二つです。しかし多くの管理職は、どこまで自分が担い、どこからメンバーに任せるべきか整理できていません。結果として、現場業務まで抱え込んで疲弊してしまうのです。
さらに現在は、多様な価値観を持つ部下と向き合いながら、ハラスメントにも配慮しなければならない時代です。管理職自身が育成の方法を体系的に学んだ経験がない状態で、難しい役割だけが増えているケースも少なくありません。
多くの企業の対策は「やったつもりの状態」で止まっている

——多くの企業では対策としてサーベイを実施したり、新たな評価制度を導入したりしています。それでも改善につながらないのはなぜでしょうか。
津藤氏:多くの企業でエンゲージメントサーベイや360度評価などの施策が導入されていますが、それらが組織の変化につながっていないケースも少なくありません。施策を実施すること自体はできていても、サーベイ結果の背景にある問題まで踏み込んで分析できている企業は少ないのではないでしょうか。360度評価も、対象の管理職に「あなたの結果はこうでした」と伝えるだけで終わってしまうなどもよく耳にします。
その結果、制度・評価・日常のマネジメントに十分に接続されておらず、成果につながらない状態に留まっているのです。
本来であれば、なぜその結果になったのか、何を改善すべきなのかまで踏み込んで支援する必要があります。しかし実際には、その後の行動変容までを含めて設計されていないケースが多く、結果として施策が組織の変化に結びつかないままになっています。
——管理職本人に「後は自分で考えてください」と委ねてしまっているのですね。
津藤氏:はい。しかし人は、自分の見たいものしか見えなくなりがちです。結果を正しく受けとれないことが多いのです。他者の支援や対話がなければ、自分の行動を客観的に振り返り、改善につなげる動きはなかなか起きないのです。結果として、サーベイや評価制度を導入していても組織はなかなか変わらない。私はこれを「やったつもりの状態」だと捉えています。本当に必要なのは制度や施策そのものではなく、その先にある行動変容です。
「育成設計」の課題を経営層が認識できているか

——離職や管理職疲弊の背景には、どのような構造的課題があるのでしょうか。
津藤氏:私は「育成設計」の課題が大きいと考えています。
企業によっては管理職の役割定義を定めているところもあります。しかし、それが実際の評価や行動に十分に結びついていないケースが多いです。
その背景には、役割定義・行動基準・評価制度・育成施策がそれぞれ個別に運用されており、全体として設計されていないという構造的な問題があります。こうした状態では、特定の制度や施策だけを見直しても十分な改善にはつながりません。
たとえば管理職の役割として「部下育成が重要」と掲げていても、評価ウェイトが極端に低いことがあります。それでは管理職は育成よりも目先の業績を優先しやすくなります。
——こうした問題を、経営層は認識しているのでしょうか。
津藤氏:育成を経営課題として捉えている経営層と、そうでない経営層の差が大きいと感じますね。経営者の中には、人材育成の重要性を理解していても事業投資を優先し、「育成は現場がやるもの」と考えてしまっているケースもあります。
また、多くの企業では、新入社員や若手向けの育成は整備されていても、管理職層や次世代経営人材に向けた育成設計が十分ではありません。初任管理職研修を実施した後は学ぶ機会がなく、時代の変化に対応できないままマネジメントを続けているケースもあります。
管理職に求められる役割は、この10年で大きく変わりました。かつては「管理者」として業務を管理することが中心でした。しかし今は、人を育てながら成果を出し、多様な人材を巻き込みながら組織を動かすことが求められています。それにもかかわらず、求められる役割に対する学習機会や支援が不足しているのです。
「人の成長が早い」「経営人材が育つ」。育成設計が機能する企業の強み

——育成を設計として捉え、取り組みを進めている企業には、どのような特徴がありますか。
津藤氏:まず、人の成長が早いです。役割や期待値が明確になっているため、社員自身が何を目指せばいいのか理解できます。
また「次はこの役割を任せよう」「この挑戦を経験してもらおう」といった育成施策も行いやすくなります。結果として、次世代の経営人材も育ちやすくなります。
——どうすればこうした状態にたどり着けるのでしょうか。
津藤氏:役割定義と報酬を明確にし、それぞれの役割に求められる行動基準を言語化することが重要です。さらに、その行動基準を評価制度と結びつける必要があります。
人は評価される方向に成長するものです。管理職に育成行動を求めるのであれば、育成行動が適切に評価されなければなりません。
また、日常のOJTも重要です。1on1を実施するだけでは十分ではありません。役割定義や目標に照らし合わせながら、「何ができていて、何が不足しているのか」を対話する必要があります。育成設計が機能している企業では、こうした取り組みが制度と現場の両面でつながっています。
——では、育成設計を進める際には、どのような手順が必要になるのでしょうか。
津藤氏:まずは人事戦略から見直すことです。会社としてどのような人材を求め、どのように成長してほしいのかを明確にする必要があります。
その上で、役割や評価、育成のあり方といった要素を一貫して設計していきます。重要なのは、それぞれを切り離して捉えないことです。制度や研修だけを見直しても、現場での運用とつながっていなければ機能しません。
また、制度だけでなく、フィードバックや学び合いが機能する文化も含めて設計していく必要があります。
エンゲージメント増加、離職率大幅減の例も
——育成設計を見直そうとしても、「人事部門だけで進めることは難しい」と感じる企業が多いかもしれません。
津藤氏:実際に、人事部門だけでは進めきれないというお声は少なくありません。
育成設計を見直すためには、人事戦略や役割定義、評価制度、育成施策、組織文化など、多くの要素を整理する必要があります。しかし実際には、人事部門も日々の業務に追われており、組織全体を俯瞰しながら改革を進める余裕を確保することは簡単ではありません。
また、長年同じ組織の中にいると、課題そのものが見えにくくなってしまうこともあります。そのようなときに有効なのが、外部のプロ人材の活用です。
プロ人材は第三者の立場から組織の現状を分析し、本質的な課題を整理することができます。また、育成設計や人事制度の見直しを進める際の優先順位付けやプロジェクト設計を支援できることも大きな価値です。
さらに、経営層や管理職に対して、社内では伝えづらい課題を客観的な視点から提起できる点も外部人材ならではの強みといえるでしょう。「はっきり言ってくれてありがとう」と経営者から感謝の言葉をいただくことも少なくありません。また、伴走支援によって、人事部門自体が自走できるようになることも多く、育成の仕組みづくりという観点でも有効だと考えています。
実際に私が支援した企業では、育成設計の見直しにより「エンゲージメント18ポイント向上」「離職率22.5%低下」という大きな成果につながったケースもあります。
離職や管理職疲弊といった課題の背景には、組織ごとに異なる事情があります。だからこそ、自社の状況を客観的に見つめ直しながら、育成設計を再構築していくことが重要なのです。
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【プロフィール】
合同会社Terrace 代表社員 津藤 裕美氏
株式会社IMJ 経営管理リーダー、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社人事部ゼネラルマネージャー、株式会社JIMOS 総務人事執行役員と歴任し、企業内人事に20年以上従事。
経営者目線と現場実態の両軸を踏まえて人事施策を企画・実行してきた実績多数。風土改革や、各種制度(評価、報酬、キャリア支援、育成、労務等)の設計・運用の他、自ら研修や採用の実行役を担うなど人事に関わる全領域の経験をもって、戦略人事と運用人事の両面をカバーしてきた。
現在は独立し、組織開発コンサルを中心に、管理職育成・人事メンバー育成・研修講師・女性活躍推進案件等に従事。
まとめ
若手社員の離職や管理職の疲弊は、個人の問題として語られがちです。しかし、その背景には育成の責任や役割定義、評価制度、マネジメントのあり方など、組織全体に関わる構造的な課題が存在しています。
離職や管理職疲弊への対応を考える際には、目の前の症状だけを見るのではなく、その背景にある育成の仕組みそのものを見直す必要があるでしょう。人事戦略から役割定義、評価、育成、文化形成までを一貫して見直すには、社外の専門知見を取り入れることも有効です。「HiPro Biz」を通じて、育成設計の再構築に伴走できるプロ人材の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
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